預言されていたイスラエルの運命(1)―アブラハム契約―

世界広しいえども、ユダヤ人ほどユニークな歴史を持つ民はいないだろう。それは、ユダヤ人が、民族的な単位で、聖書の神ヤハウェと契約を結んでいるからだ。もっとも、どの民族も、歴史的に自分たちの「神」を持っているものだ。例えば、日本は古来より神道の国であり、八百万の神々が居ると信じられてきた。

しかし、イスラエル人が契約した神とは、これら諸国の神々とは全ての点において全く異なっている。例えば、イスラエルの神・ヤハウェには、人間と同じような「契約」という概念があり、その契約の中で約束した事柄に基づいて、忠実に行動をしていくのである。そしてヤハウェは、一度交わした約束を決して破ることが無い。その約束を守る意志と、契約の条項を果たす絶対的な力を有しているのである。

契約の内容には、遠い将来に生じる出来事も含まれているので、その内容はヤハウェによる預言とも表現できる。ヤハウェが実際に語られた重要な預言は、全て聖書の中に記されている。したがって、聖書の預言とユダヤ民族の歴史を調べていけば、彼らの辿ってきた道筋が、いかに預言的な契約内容に沿って展開してきたのかがよくわかる。

イスラエルとヤハウェの契約は、彼らの先祖である「アブラハム」という古代中近東に実在した、一人の人物にまで遡ることができる。まずはこのアブラハムという人物を起点とし、聖書の預言とイスラエルの歴史が、どのように関係していくのかを見ていこう。

「アブラハム契約」

約束の土地の首都「エルサレム」ユダヤ、キリスト、イスラム教の聖地となっている

アブラハムに約束された土地の首都「エルサレム」は、ユダヤ、キリスト、イスラム教の聖地である

時はBC2000年頃、中東のメソポタミア周辺のウルという都市に、アブラハムという人物が居た。ちなみに彼は、世界の三大宗教、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の源流となる、非常に偉大な人物である。ヤハウェはかつて、このアブラハムに現れ、彼と契約を結んだ。この契約を専門的に「アブラハム契約」と言う。神はこの契約の中で、主に三つのことをアブラハムに約束した。それは「土地」「子孫」「祝福」に関するものである。

これから、この契約と預言の内容を外観していくが、その前に抑えておくべき大事なポイントがある。このアブラハム契約の内容の最終的に成就は、悠久の時を経て展開してくものであり、人類に対するヤハウェの壮大な計画のゴールを指し示す道筋となる。したがって、アブラハム契約の内容は、その後のイスラエル民族の歴史や、聖書全体の預言の内容を理解する上で、重要な原則となっていくのである。

1)アブラハムの子孫の数は、天の星のようになる。

あなたの子孫は、この星のようになる

あなたの子孫は、この星のようになる

そして、彼を外に連れ出して仰せられた。「さあ、天を見上げなさい。星を数えることができるなら、それを数えなさい。」さらに仰せられた。「あなたの子孫はこのようになる。」(創世記15:5

■預言された年代: BC2000年代初頭

神は、アブラハムの子孫が、天の星のように数え切れない程多くなる、と語った。この預言の成就は、歴史を通じて明らかになっている。この約束は、アブラハム、イサク、ヤコブに受け継がれ、ヤコブの十二人の息子が、イスラエル人の各部族の先祖となった。その後数百年をかけて、彼らの数はとても多くなり、一つの国家を形成するまでに成長した。

また神はアブラハムに対して、「わたしが、あなたを多くの国民の父とする」(創世記17:5)とも語り、アブラハムが複数の国民の先祖となることも明らかにした。アブラハムが設けた息子の中に、イシュマエルとイサク(ユダヤ人の先祖)がいるが、イシュマエルが後のアラブ人の先祖となったことは有名である。今日見る通り、中東には非常に多くのアラブ人がいるが、この事実は、聖書の預言が成就していることを示すものである。

2)アブラハムの子孫は、パレスチナの土地を取得する。

主がアブラムに現われ、そして『あなたの子孫に、わたしはこの地を与える。』と仰せられた。」(創世記12:7

■預言された年代: BC2000年頃

神はアブラハムの子孫に、カナンの地を与えると約束した。カナンの地とは現代のパレスチナの地のことであり、当時はカナン人という民族が住んでいたので、「カナンの地」と呼ばれた。この約束は、BC1400年代に、モーセの後継者のヨシュアという指導者によって、イスラエル人がカナンの地の多くの部分を制圧した時から、段階的に成就していく。

イスラエル人がこれまでに、神が与えると約束された地の最も多くの部分を領土としたのは、BC900年代のソロモン王の治世下であった。この時期のイスラエルは「ソロモンの栄華」と呼ばれ、かつてない程の繁栄を謳歌した時代であり、ここにおいて土地に関する約束は、一時的に成就したと見ることもできるが、十分ではない。

なぜなら、イスラエル人は、その歴史全体を通して、神ヤハウェに背いた時期が多かったため、神の約束の祝福を十分に受取ることができなかった。したがって、土地の取得に関する約束の完全な成就は、なお将来にわたるものである。これらの詳細は、追って説明を加えていく。(*1)

3)地上の全ての民族は、アブラハム(とその子孫)によって祝福を受ける

家畜の小屋で生まれたメシア Mary & Jesus by Murillo 15

家畜の小屋で生まれたメシア Mary & Jesus by Murillo 15

地上のすべての民族は、あなたによって祝福される。」(創世記12:3
あなたの子孫によって、地のすべての国々は祝福を受けるようになる。」(創世記22:18

■預言された年代: BC2000年頃
■預言の成就: 歴史的に、約束の成就が進んでいる。

この預言の約束は、アブラハム及びその子孫が、全人類を祝福する祭司の器として、神から選ばれたことを意味する。そして、創世記22:18における「子孫」とは、神の人類救済計画における中心人物である「メシア」(メシアはヘブル語で、救い主を指す)を表す。

この約束によって、メシアはアブラハムの子孫から誕生することが明らかになった。そして、この約束以降、やがて誕生するメシアへの系譜を守る神の勢力と、メシアの到来を阻止しようとする邪悪な勢力とのせめぎ合いが、イスラエル人と、それに関わる周辺諸国の歴史を貫く大原則となっていく。

その後、今から約二千年前、約束のメシアは、満を持して、ユダヤのベツレヘムという町で誕生する。その名はイエスである。イエスは、その生涯を通して、初臨(最初の到来)に関連する旧約聖書のメシア預言を全て成就し、神の計画の確かさを証明した。そして今後、アブラハム契約の「メシアによる全人類の祝福」の約束は、メシアの再臨(再び地上に来る)以降の時代によって、完全な成就を見ることになる。

 

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注(1)
アブラハム契約の成就の定義については、神学的に議論があります。しかし、本記事は、聖書の預言の成就という側面に的を絞って、聖書に馴染みの無い読者の方にもわかりやすく説明することを目的としていますので、ここでは詳細な議論は取り上げません。

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