ダニエルの預言―世界支配者たちの興亡。バビロンの王が見た巨大な像の幻
ネブカドネザルが見た巨大な像
時は紀元前7世紀、当時の世界を支配していたのは、新バビロニア帝国のネブカドネザル二世でした。彼は自身の治世の第二年目のある日、夢の中で驚くべき巨大な像の幻を見ます。彼は夢の内容に激しく動揺し、バビロニア中の占星術師や魔術師、賢人を呼び集め、自分が見た夢を言い当て、かつその夢の解釈をするように迫ります。ところが、誰も王の見た夢を明かすことができる者は見つかりませんでした。
しかしその時、バビロン捕囚で連れてこられていたユダヤ人の青年ダニエルが、天の神に王の夢の解き明かしを祈り求めたところ、神はその幻の秘密をダニエルに明らかにしました。王が見た驚くべき夢と、その解き明かしとは?
天の神は夢を解き明かす
王の見た夢
ダニエルは王の前で、王の見た夢を次にように明らかにしました。
31 王様、あなたは一つの像を御覧になりました。それは巨大で、異常に輝き、あなたの前に立ち、見るも恐ろしいものでした。32 それは頭が純金、胸と腕が銀、腹と腿が青銅、33 すねが鉄、足は一部が鉄、一部が陶土でできていました。34 見ておられると、一つの石が人手によらずに切り出され、その像の鉄と陶土の足を打ち砕きました。35 鉄も陶土も、青銅も銀も金も共に砕け、夏の打穀場のもみ殻のようになり、風に吹き払われ、跡形もなくなりました。その像を打った石は大きな山となり、全地に広がったのです。―ダニエル2:31-35
夢の解き明かし
ダニエルは続けて、王の見た巨大な像が何を意味しているのかを明らかにします。
37 王様、あなたはすべての王の王です。天の神はあなたに、国と権威と威力と威光を授け、38 人間も野の獣も空の鳥も、どこに住んでいようとみなあなたの手にゆだね、このすべてを治めさせられました。すなわち、あなたがその金の頭なのです。
39 あなたのあとに他の国が興りますが、これはあなたに劣るもの。その次に興る第三の国は青銅で、全地を支配します。
40 第四の国は鉄のように強い。鉄はすべてを打ち砕きますが、あらゆるものを破壊する鉄のように、この国は破壊を重ねます。
41 足と足指は一部が陶工の用いる陶土、一部が鉄であるのを御覧になりましたが、そのようにこの国は分裂しています。鉄が柔らかい陶土と混じっているのを御覧になったように、この国には鉄の強さもあります。42 足指は一部が鉄、一部が陶土です。すなわち、この国には強い部分もあれば、もろい部分もあるのです。43 また、鉄が柔らかい陶土と混じり合っているのを御覧になったように、人々は婚姻によって混じり合います。しかし、鉄が陶土と溶け合うことがないように、ひとつになることはありません。
44 この王たちの時代に、天の神は一つの国を興されます。この国は永遠に滅びることなく、その主権は他の民の手に渡ることなく、すべての国を打ち滅ぼし、永遠に続きます。45 山から人手によらず切り出された石が、鉄、青銅、陶土、銀、金を打つのを御覧になりましたが、それによって、偉大な神は引き続き起こることを王様にお知らせになったのです。この夢は確かであり、解釈もまちがいございません。」
像の幻の預言はどのように成就しているのか?
ダニエルは、この幻が天の神からのものであり、未来に起こることと、終わりの日に関するものであることを説明します。そしてこの幻は、イスラエルを支配するようになる、四つの異邦人の世界強国を表しています。なおこの像の幻は、ぞれぞれの帝国の具体的な名前を明らかにしてはいませんが、それらの特徴を的確に描写している、という点で驚くべき内容です。
第一の王国・新バビロニア帝国
ダニエルが「すなわち、あなたがその金の頭なのです。」と言及した通り、最初の金の頭が意味する王国は、その時世界を支配していたバビロニア帝国でした。ネブカドネザルは、なぜ自身の王国を表す頭部が「金」であるのかを、よく理解することができたでしょう。なぜなら、当時のバビロニアで礼拝されていた神々の長は「マルドゥク(Marduk)」であり、その神は「金の神」と呼ばれていたからです。加えて、バビロニア市内の至るところでは、金がふんだんに用いられていたのです。まさに金はバビロンの象徴だったのです。
ネブカドネザルは、自分の持っていた権威は、バビロニアで崇拝されている神々によってもたらされていると考えたいたようですが、ダニエルは「天の神はあなたに、国と権威と威力と威光を授け」と王に告げ、彼の権威は天の神によって授けられ支配されていることを明らかにしました。
第二の帝国は「胸と腕が銀」
巨大な像の金の頭の次は「胸と腕が銀」の世界強国です。栄華を誇ったバビロンは、BC539年に、メディア・ペルシャ帝国によって打ち破られ、この帝国がバビロンの次に世界を支配する王国になりました。この帝国を表す像の部位に、二本の腕が含まれていることに注目してください。これらの二本の腕は、この帝国が、メディア人とペルシャ人による連合国となることを明らかにしたものだと考えらえます。
また第二の帝国は、第一の帝国よりも「劣る」と言われました。バビロニア帝国では、王の権威は国の法律を上回り、帝国内の支配は王の元に統率されていました。しかし、メディア・ペルシャ帝国になると、王の権威はより低くなり、国の法律によって統制されていきます。国内の統率力においても、メディア・ペルシャのそれは、バビロニア帝国に劣るものでした。
第三の国は青銅で、全地を支配する
メディア・ペルシャの次に世界強国となったのは、アレクサンドロス大王によるマケドニア帝国です。この帝国については「全地を支配します」と預言されましたが、彼は存命中に遠征を繰り返し、それまでの二つの帝国の領土を大きく上回る地域を、支配することに成功しました。また、この国が青銅で示されていたように、彼らギリシャの軍隊の武器で広く使用されていた金属は、「青銅」だったのです。
第四の王国は鉄のように強い
鉄は、金・銀・銅に比べて最も硬度が強い金額ですが、第三の王国の勢力を粉砕したローマ帝国は、まさにそのような強さを持った国でした。それまでの帝国が支配したあらゆる地域を支配下に置き、軍事力においても、抜きん出ていました。そしてローマ帝国は、AC70年にエルサレムを没落させることに成功します。像の部位では、「すね」にあたり、二本の足に別れていますが、AC395年に、東と西に帝国が分裂したことを示すものと考えられるでしょう。
陶土と鉄が交じる十の王国
この第四の王国の次の段階の特徴は、十本の足の指を含むこと、連合された王国には強さと弱さが交ざり、そこの人々は姻戚関係によって混じり合っている、というものです。この部分の解釈については多少の議論があるものの、聖書預言の専門家の見解によれば、この第四の王国の第二のステージは、復興ローマを彷彿させる十の王国による連合国を表しており、これから起こる世界の状態を表します。※1
ここで補足しておくべき点として、ローマ帝国の崩壊から、像の足を表す十の連合国までの中間期間の世界の興亡の詳細は、この像の幻では示されていません。なぜならこの幻は、基本的にイスラエルを支配する世界帝国の興亡を示すものであるため、イスラエル国家が存在しない空白の期間について、詳細を説明するものではないと考えられるからです。しかし、ローマ帝国が既に消えたとはいえ、その帝国の様々な影響は、今日の世界に色濃く残っています。
ダニエル書の7章などの他の預言者との関係で見る時に、この十の王国の出現は終わりの日の時代に関わるものであり、その時には「反キリスト」と呼ばれる独裁者の権威が世界を座巻するようになります。またこの反キリストは、自分に従わないあらゆる民族を迫害し、特にユダヤ人を厳しく迫害することになります。
第五の王国、永遠に世界を支配する
第五の王国を示す石は、人手によらずに切り出され、像の足を打って粉砕し、大きな山となって全地に広がり、永遠に世界を治めます。「人手によらず」が意味することは、この王国が人間の力や権威によって起こるものではなく、神の権威によって起こる王国であることを意味します。そしてその王国の支配者は、「イエス・キリスト」であると聖書は預言しています。
聖書は最初から最後まで一貫して、この世界を永遠に治める王の到来とその統治について、詳細な情報を予め明らかにしています。この王のことを、専門的には「メシア」(ヘブル語で油注がれた者・救い主の意味)と呼び、メシアについて語っている預言を「メシア預言」と言います。
メシア預言によれば、このメシアとなる人物は二度にわたって地上に来ることになっています。(最初の到来を「初臨」と呼び、二度目の到来を「再臨」と呼びます。)初臨に関する驚くべき預言は、紀元一世紀にイエスが送った生涯を通して、完全に成就しました。そうであれば、再臨に関する預言の内容も、初臨の時と同じように成就すると考えることができます。
そして聖書は、メシアが再臨する時には、地上の全ての人々を裁き、その後正義と平和によって永遠に地上を支配すると約束しています。これが、像の幻における第五の王国の意味するところです。
人間の歴史を支配する天の神
世界の歴史は、第一の王国から第四の王国の前期までの興亡において、ダニエルが明らかにした預言の通りに進行してきました。この事実は、究極的に人間の歴史を支配しているのが、人間の力ではなく、幻の秘密を明らかにした「天の神」であることを明らかにしています。
これから世界は、像の足が示す王国から、第五の永遠の王国に至ることになるでしょう。その時あなたは、果たしてどこにいるのでしょうか?第五の王国を信じて希望を抱く全ての人には、素晴らしい未来が待ち受けているでしょう。
【最近のコメント】